キログラム「kg」が新しい定義に変わるとは?日常生活に影響はあるのか?

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2019年5月20日、質量の単位の定義であるキログラム「kg」が130年ぶりに変わることが決定しました。

私たちはキログラムを当たり前のように使用しているので、その定義が変わるとどうなってしまうのかという風に不安を覚える人もいるかもしれません。

しかし、安心してください。

例え定義が変わったとしても私たちの生活は何も変わることはありません。

なぜならば、あらゆる単位の定義を管理している国際度量衡総会の方々が我々の生活に支障がきたさないように慎重に定義を変えてくれるのです。

つまり、あなたの体重計やキッチンの計りは今のままで大丈夫であるということ。

せっかくなので今回は新しい定義に変わるとはどういうことなのか?単位の原点について少し詳しく説明していこうと思います。

1.単位とは

私たちは当たり前のように単位を受け入れています。

しかし、よく考えてみて下さい。

単位って一体どこからやってきたのだろうか?

不思議に思いませんか?

生まれた時から1kg、1度など日常では単位を当たり前のように使用しています。

そんな単位は誰がどのようにして定めたのでしょうか。

時は文明社会を形成し始めたころの人類まで遡ります。

そこで人々は単位を定めました。

なぜならば社会を形成するには単位が必要不可欠だったからです。

物を交換したり、人に大きさを伝えるのには基準が必要ですよね。

日本や中国では親指と人差し指を広げた長さである尺や、足の大きさフィート。

ピラミッドの建設にはファラオのひじから中指の先までの長さであるキュービットが使われました。

ファラオのひじから中指の先までの長さは定義として定められ、その長さを花崗岩に刻み現示に、そしてそれをもとに金属や木でものさしを作ったのです。

使用しているとものさしは削れたりするので、くるってしまいます。

そこで、古代エジプトでは満月ごとに校正を行い、行わなかったものには重い罰が下されました。

いかに校正が大事なことであるということを昔の人々も理解してたんですね。

そしていっきに時は18世紀にまで進みます。

世界各地で様々な独自の単位が生まれ、使用されていました。

重さと長さだけでも800種類以上の単位が使用されていたのではないかと言われているのです。

しかし、このままでは国同士の取引や科学の発展の足掛かりになってしまいます。

そんな時、フランスでメートル法が生まれました。

2.メートル法

メートル法の基本方針は誰でも受け入れられるように単位の大きさは人類共通の自然に求めること、また12進法などが混在しないように10進法とすることや、水や他の液体にも同じ単位を使用するという1量1単位とすることなどとされました。

世界中の誰にでも受け入れられるものでなければいけません。

そして、そこで定められたメートルやキログラムが元となり、今なお使用されているのです。

初めの単位の策定は1791年、パリ科学学士院が行いました。

何を基準にするのか?ということに関しては様々な議論が行われ、最終的には北極点から赤道までの子午線の1000万分の1に定め、ギリシャ語で測るという意味の「メトロン」からメートルと決められたのです。

そのため北はダンケルク、南はバルセロナまでの1000キロの道のりを測量隊は測量しました。

おそらく信じられないほど困難なことであったはずです。

また、同時に質量が検討され1辺10 cmのマスを作製し、そこに水を満たしたものに相当する質量を金属分銅に置き換え、その重さを1 kgと定めました。

グラムはギリシャ語の小単位や1文字を意味する「グラマ」からきています。

ここで金属分銅に置き換えたのは、マスや水の熱膨張から体積を安定させることが困難であり、蒸発によって質量は変化してしまうからです。

そしてこれがキログラム原器であり、1889年には現代まで使用されている白金とイリジウムの合金で作られたものが使用されています。

メートルは「北極点と赤道との間の子午線の弧の1000万分の1」

キログラムは「水1立方デシメートルに相当する質量」

とそれぞれ定義され、1875年にはメートル法を世界的に普及させるためのメートル条約が締結されたのです。

日本では明治政府が1885年にメートル法に加盟し、初めに造られた原器を受け取っています。

3.新たな定義

世界中に広まった長さ(m)や質量(kg)、他にも基本7単位とされる時間(s)、電流(A)、温度(K)、物質量(mol)、光度(cd)は科学が進むにつれてその定義は変更されてきました。

以下の表は変更前の従来の定義です⇩

『新しい1キログラムの測り方』表11.1より

科学が進めば技術は向上し、測定精度は上がっていきます。

そうなるとどういうことが起こるかというと、定義のとてもわずかな誤差であっても計算結果が大きく違ってきてしまうのです。

私たちの体重では気にならないくらいの誤差であっても、量子力学の世界では大きなずれになってしまうということ。

なんと、白金とイリジウムの合金で作られたキログラム原器は当時10万年持つとされていましたが、表面に不純物が吸着するなどの影響によって130年間で1億分の5キログラム増えてしまっていたのです。

この重さは指紋1個分というとてつもない軽さですが、この差が現代の科学では大きな差になってしまうのです。

そこで、今回キログラム原器は廃止され、定義が新たなものに生まれ変わります。

新たな定義とは、光子エネルギーと振動数の比例関係をあらわす比例定数『プランク定数』を用いて表わすというもの。

E=hf

E:エネルギー h:プランク定数 f:電磁波の周波数

E=mc²

m:質量 c:光の速さ

この2つの式を用いれば、質量を求めることができます。

m=hf/c²

つまり、質量は「光子1個あたりの運動量を得た時のその物体の速度の変化」から決定されることとなります。

これまでの定義よりかなり複雑にはなりますが、その精度はかなり向上することになるのです。

この定義の決定には日本も大きく貢献しています。

また、同時にアンペア、ケルビン、モルの定義もメートル条約が成立した記念日でもある2019年5月20日に変更されるのです。

4.さいごに

たとえキログラム原器が廃止されるからといって私たちは体重計や計りを捨てる必要はありません。

そうなったらものすごく大変ですよね、、、

科学が進むにつれてより正確に、より高い精度が求められることになります。

私たちが生活する上では感じることもない誤差であっても、大きな誤差になりうるのです。

更なる発展を目指すのであれば、より正確な定義が求められるということですね。

定義以上のものはないわけですから。

今後、科学が進んで行き、さらに定義が変わることも十分あり得ます。

未来の私たちが使っている定規や温度計はもっと正確なものであるでしょう。

また、当たり前のように使用しているキログラムやメートルの歴史は意外に浅く感じるかもしれません。

メートル法が成立したのは1875年ですからね。

どれだけこの100年ほどで科学が進歩してきたのかが分かります。

たまにはこのような原点や歴史にも目を向け、自分たちが何を基準に物を見ているのかということを気にしてみてはいかがでしょうか。

【参考文献】

いかにしてキログラムの定義を決めたのか?とても詳しく分かりやすく書かれていました。

理系の方は読んでおいた方が良い一冊です。

『新しい1キログラムの測り方』臼田孝 BLUE BACKS 2018年

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