2020年1月9日、国際科学雑誌Science Advanceに襲撃的な論文が投稿されました。
その内容はキンメモドキは自身でルシフェリンもルシフェラーゼも作らず、餌として摂食するウミホタルから獲得しているということが明らかとなったというもの。
酵素であるルシフェラーゼのようなタンパク質が吸収されるには、これまでの常識として細かく分解されなければ吸収できないというのが普通でした。
しかし、キンメモドキは何らかの方法でルシフェラーゼをウミホタルより獲得し、貯蔵、利用しているというのです。
今回は中部大学応用生物学部博士研究員である別所学先生らのこの衝撃的な研究を紹介させて頂きます。
1.キンメモドキ
ハタンポ科に属し、太平洋、インド洋など幅広く分布しており、国内では千葉より南で見ることができる魚です。
夜行性なので昼間はサンゴ礁や岩場に隠れていますが、群れで生息しており、時には数万を超える大きな群れを作ることもあります。
キンメモドキは胸部と消化管の一部から派生している管状の発光器を持っていて、半透明な筋肉組織を通して腹側が光ります。
そして、ルシフェリン自体は以前よりウミホタルなどの餌から獲得していることが明らかとなっていたのですが、今回の研究で明らかになったようにルシフェラーゼも同様に獲得し、発光しています。
2.同じルシフェリン
今から約50年前、羽根田博士とオワンクラゲの緑色蛍光タンパク質の発見で2008年にノーベル化学賞を受賞された下村博士らはキンメモドキのルシフェリンの結晶化に成功、ウミホタルのルシフェリンと同一物質であることを明らかにしました。
発光する生き物たちは多くいますが、それぞれ生物グループごとに独自のルシフェリンとルシフェラーゼを持っており、別々のルシフェリン、ルシフェラーゼ同士では発光することはできません。
そのため当時はウミホタルのような甲殻類とキンメモドキが同じルシフェリンを持つということは考えにくく、驚くべき発見となりました。
その後、様々な海洋生物で餌から発光物質を獲得していると考えられる結果が報告されキンメモドキも同様に餌として摂食するウミホタルより獲得しているのだろうということが考えられました。
それから50年キンメモドキのルシフェラーゼは謎のままでた。
3.盗タンパク質
今回の研究でキンメモドキのルシフェラーゼを分析した結果、トガリウミホタルのルシフェラーゼと同じものであるということが明らかとなったのです。
また、キンメモドキの発光器で働いている遺伝子や、その他で働いている遺伝子を調べてもルシフェラーゼ遺伝子は見つからず、ゲノムからも見つからなかったということ。
タンパク質の情報が書かれている遺伝子がなければ、タンパク質は作られるはずがありません。
しかし、キンメモドキはルシフェラーゼをしっかりと持っており、光っています。そのルシフェラーゼは一体どこからやってきたのか?
そこで志摩マリンランドに協力を依頼し、キンメモドキを調べたところ、1年間飼育していたキンメモドキはルシフェラーゼを持たず、光らないということがわりました。
また、このキンメモドキにウミホタルを餌として与えたところ、発光器からルシフェラーゼが検出され、餌からルシフェラーゼを獲得しているということが明らかとなったのです。
ここで疑問に感じた方が多くおられるはずです。酵素はタンパク質。タンパク質は細かく分解しなければ吸収できないのでは?
その通りです。ただ、今のところはキンメモドキは他のタンパク質は消化し、吸収しているのですがルシフェラーゼを選択的に分解せずに吸収する方法を持っているとしか言いようがなく、そのメカニズムというのはまだ明らかとなっていないのです。
免疫システムの重要な役割を果たす、小腸バイエル板などのリンパ濾胞を覆う上皮領域にはM細胞と呼ばれ高分子、細菌を抗原として取り組むといった細胞も存在しているので、このような取り込まれ方をされている可能性もあります。
摂食したものからタンパク質をそのまま利用する盗タンパク質、今後このメカニズムが明らかとなれば経口摂取からのタンパク質性医療品の実現も可能となるかもしれません。
今後の更なる研究が楽しみですね。
4.別所先生への質問
なんとくもMファーストオーサーである別所先生に直接質問をさせていただきました。本当に感激です。
そいやキンメモドキがウミホタルの酵素を利用して発光しているということで話題になってましたが、酵素の取り込まれ方は不明でしたよね🐢
完全にただの思い付きでしかないし、調べてもないですが、ある程度分解し吸収、再構築するんじゃないか?と考えてみました
酵素の分子量が20k だとして、— くもM🐢@身近な科学・学びを遊びに (@science_kido) March 18, 2020
ちょっと生物学出身なのに突拍子のない思い付きを夜中に呟いたんですが、スタンフォード大学博士研究員である新妻先生に直接聞いてみれば?と言っていただきまして、紹介していただきました。
丁寧に回答していただいて感激です!これからの研究も応援しております。
別所先生、新妻先生ありがとうございました。
5.参考資料
Kleptoprotein bioluminescence: Parapriacanthus fish obtain luciferase from ostracod prey Science Advances 08 Jan 2020
https://advances.sciencemag.org/content/6/2/eaax4942
別所先生のブログ キンメモドキの発光
https://besshomanabulumi.wixsite.com/manabuhome/post/kleptoprotein-bioluminescene
国立研究開発法人 科学技術振興機構 餌生物から酵素を盗み利用する生物を発見
https://www.jst.go.jp/pr/announce/20200109-2/index.html