頑固な油汚れは水でこすっても落とすのに一苦労で、一見するとこと綺麗に見えてもなんだかベタベタしています。
特にスパゲッティを食べた後のお皿や、ステーキや揚げ物なんかが乗っていたお皿の油はしつこいですよね!
では、そんな時あなたならどうしますか?
間違いなく洗剤を使うはずです。
するとどうでしょう、あんなにベタベタしていたお皿もつるつるになっているではないですか!
よくCMでもやっていますよね。
では、洗剤は一体どうやってお皿や服の頑固な油汚れを落としているのでしょうか?
実は洗剤には『界面活性剤』という両親媒性の分子が沢山含まれてます。
この界面活性剤が今回のポイントとなるのです。
洗剤は界面活性剤の様々な作用を駆使し、頑固な油汚れを落としてくれているわけですが、いきなり界面活性剤とか両親媒性と言われても分からないですよね。
では、界面活性剤とはいったい何なのでしょうか?そこから説明していこうと思います。
1.界面活性剤
界面活性剤とは、分子内に『親水基』と『疎水基』を持つ物質です。
そして、このように親水基と疎水基の両方を持つ物質を『両親媒性分子』と呼んでいます。
親水基とは、読んで字の通り水と親しくできる基、構造ということです。
つまり、親水基は水分子と水素結合しやすいということになります。
逆に疎水基とは水とは疎遠で油とは親しいのです。
つまりは、油と結合しやすいということになりますよね。
なんと!
洗剤、つまり界面活性剤は水と親しいし、油とも親しいということになります!
水と油はお互いに親しくないのにどっちとも親しいとか、八方美人のようですよね。
矛盾しているようにも思えますが、界面活性剤はきっちりとこの2つの性質を持っているのです。
そして、さらにこの界面活性剤にはいろいろな作用があります。
このいろいろな作用を合わせ使うことにより、油汚れを落としているのです。
では、その作用を順番にご紹介していきましょう。
2.浸透作用
毛糸を水に浮かべてみてください。きっと沈まず、浮いているはずです。
一体なぜなのでしょうか?
それは、『表面張力』が働いているからです。
つまり、水同士がくっつく力が働き、水の中に入らないように水に支えられているので毛糸は浮いているというわけです。
水に入ってこようとする邪魔者を、水同士がくっついていて、入ってくるのを拒否しているんですね。
良くある実験では1円玉を浮かせる実験がありますよね。
あれも表面張力で浮いているのです。
では、界面活性剤を毛糸が浮かんでいる水に入れると、どうなるでしょうか?
なんと、毛糸はみるみるうちに沈んでいきます。
一体何が起きたのでしょうか?
毛糸が水の中へ落ちていくことには2つの理由があります。
まず、①界面活性剤が表面張力を弱くしているのです。
界面活性剤が水へ入っていくと、下図のように水面に層を形成することになります。
このように水側には水と仲の良い親水基を向け、空気側にはに油と仲が良い疎水基を向けます。
このせいで、水の表面は界面活性剤に囲まれるわけですから、表面の水は自由に動けなくなるのです。
その結果、自由に動けないんだから自由エネルギーが下がり、表面積を小さくしようとする表面張力の力が弱まるのです。
表面が覆われ安定していては表面を小さくしようがないですよね。
そして、もう一つの理由が、②毛糸の表面に界面活性剤がくっつくことで、水になじみやすくなるのです。
このように毛糸の表面は疎水基が、水側には親水基が向けられている状態です。
界面活性剤に覆われることで毛糸自体を水になじみやすくさせているというわけですね。
界面活性剤には水の表面張力を弱める性質と毛糸をなじませる二つの性質があります。
以前アメンボは表面張力で浮いていると言いましたが、界面活性剤を水に加えると、アメンボも同じように沈んでしまうのです。
絶対にやってはいけませんよ!
詳しくは↓
3.乳化作用
では、水と油をコップにいれるとどうなるでしょう?
水は水同士、油は油同士集まるので2層になってしまいますよね。
さらに、ここに界面活性剤を入れるとどうなるのでしょうか?
水と油は2層に分離せずに混ざります。
なぜでしょうか?
界面活性剤が油の粒子に取り囲むようにくっ付き、もちろん、油には疎水基を向け水側には親水基を向けます。
これは『ミセル』と呼ばれ、油の粒子が界面活性剤に取り囲まれることで油粒子自体を水になじみやすくしています。
だから、水と油は分離しなくなるのです。
また、このような作用を『乳化作用』と呼んでいます。
ちなみにミセル形成は水の温度と、界面活性剤の濃度に大きく影響を受けます。
お湯で油汚れが取れやすくなるのは、温度が上がればミセルを形成しやすくなるからです。
しかし、逆に界面活性剤の濃度が高すぎると、界面活性剤同士が集まってしまいます。
すると、ミセルは形成されにくくなってしまうのです。
洗剤の上手な使い方は適量を使用し、お湯でながすということがポイントなのです。
洗剤は多く入れりゃあいいというのではなく、入れすぎは厳禁というわけですね!
4.分散作用
次は『分散作用』
すすのような粉を水に入れてみてください。
すすはとても軽いので、表面に浮いてしまい沈みません。
では、ここに界面活性剤を入れるとどうなるでしょうか。
すすの粒子も同じように界面活性剤に取り囲まれ、水になじみやすくなります。
そして、水中に分散していくのです。
水になじみにくいものでも界面活性剤を使えば、分散させることができるのです。
このような作用を『分散作用』と呼んでいます。
5.洗剤が汚れを落とすしくみ
ここまで界面活性剤の作用を淡々と説明してきましたが、お皿の頑固な油汚れは、どのようにして落ちていくのでしょうか?
では、洗剤でお皿の油汚れを落としていきましょう!
まず洗剤を垂らすことで、お皿の油汚れに界面活性剤がくっついていきます。
もちろん油汚れ側には疎水基を向けて、反対側には親水基を向けていますよね。
そうすることで、油汚れ自体が水になじみやすくなるのです。
そこに、さらにスポンジなどの物理的な要素でこすってあげることで、油汚れは水で洗い流すことができるのです。
中には擦らなくても落ちる!みたいな洗剤もあったりしますよね!
なんとなくここまでの話を理解すれば、それが何故なのかもわかるはずです。
また、服の場合はどうでしょうか?
洗剤を服と一緒に水に入れると、浸透作用によって、毛糸の時と同じように界面活性剤が服や油汚れにくっ付いていきます。
そして、洗濯機で物理的な力を与えることで、この汚れが服からはがされていきます。
剥がされた汚れは、分散作用によって水中に分散されていくのです。
ここで重要なのは、分散されることで、また服に汚れをくっつのを防ぎ、汚れがもう一度服につかないようになっています。
せっかく取れた汚れが服に着いたら意味がないですよね!
このように界面活性剤は、『浸透作用』『乳化作用』『分散作用』全てを駆使し、汚れを落としてくれているのです。
6.さいごに
洗剤を入れると沢山泡が出ますよね?
これは界面活性剤が泡を消しにくくしているからです。
水だけだと、表面張力によってすぐに泡は消えてしまいます。
水をバシャバシャしてみると、一応泡はできるけどすぐに消えてしまいますよね?
しかし、界面活性剤を加えると、水の表面張力を弱めてくれるので、泡が消えずに残るのです。
これを利用したのがシャボン玉なのですが、シャボン玉は綺麗な色をしていてとても不思議だと思います。
そのことについてはまた今度詳しく説明しましょう。
【実験動画】