本日(2018年1月25日)の朝刊に、大変興味深い記事が載っていました。中国でクローン猿2匹生誕!というものです。
中国はかつて世間を騒がせた「ドリー」と同じ方法で、クローン猿を生み出すことに成功したそうです。勘違いされる方が多いかもしれませんが、サルのクローンが初めて生み出されたわけではありません。
今までサルのクローン自体は生み出されてきました。しかし、分化した体細胞の核を取り出し、未受精卵へ移植するといった方法では、今回が初めての例だということです。
これまでに霊長類のクローンは、この方法で成功させることができていなかったのです。今回は、核移植後に補足遺伝子をさらに移植するなど、新たな技術が生まれたことで実現しました。
そして、ここで最も重要になってくるのは、サルは非常に人間に近いということ。つまり、サルは霊長類であるということなのです。
今までサルのクローンがうまくできていなかったということは、人間での応用はまだ先の話ということでした。しかし、サルでクローンが完成すれば、人間でもすぐに応用できる可能性があるということです。
かつて、宇宙をまたにかける壮大なストーリーを展開した映画や、日本で有名なアニメでもクローンが出てきました。人のクローンを題材にした作品は数多く存在すると思います。
まさに、そのようなことが現実となる日に、一歩近づいたということですね。もし、人のクローンが自在にできるようになったとしても大きな倫理問題が発生します。クローンも命の1つなわけですから。
この技術は今後、慎重に議論しながら進めていく必要がありそうですね。ということで、今回はそんなクローンについて解説していきたいと思います。
クローンがどのようにして生まれるかを知る前に、まずは動物や植物たちがどのように増えていくのかを説明していきましょう。
1.有性生殖
人を含む多くの動植物たちにはオスとメスが存在します。そして、それぞれの持つ配偶子が合わさることで新たな個体が誕生するのです。配偶子とは、人間でいう精子と卵子のことですよね。
このような個体の増やし方を『有性生殖』と呼んでいます。
全ての動植物がというわけではなく、一部のアブラムシなどの生き物は無性生殖をおこなったりもしますが、大きな体を持つ者たちはみな有性生殖を行っています。人間もゾウもライオンも多くの動物がそうです。
これは、有性生殖のメリットが大きいということが考えられます。有性生殖の最大のメリットとは、新たな遺伝子を持つ個体が誕生するということです。
いったいどういうことなのか?
もし、遺伝子が単一だったとしましょう。クローンのようにみんな同じです。みーんな同じ顔で体をしています。そこで、一人が死ぬような病気になってしまうと、どうなるでしょうか?
一気に全滅してしまう恐れがあるのです。また、環境に関しても同じことが言えますよね?突然、住みにくい環境に変化してしまったら、みんな同じ体なので、やられてしまいます。
自然は何が起こるかわかりません。しかし、遺伝子が異なることで、病気に対して抵抗を持っていたり、環境に適応できる個体がいればどうでしょう。
その種は生き残る可能性が増えるのでしょう。つまり、有性生殖を行うことで、新たな遺伝子を持つ個体を作り、種の生存率を高めているということです。
もちろん有性生殖にはデメリットも存在します。有性生殖では、増えるのに時間とコストがかかるということです。赤ちゃんが大人になるのには時間もお金もかかりますよね。
2.無性生殖
また、有性生殖とは逆に『無性生殖』があります。無性生殖は自分のコピーを作るだけなのですぐにできてしまいます。細胞が分裂するのと同じですから。
つまり、この無性生殖はものすごいスピードで増えていくことができるのです。もちろん遺伝子は同一であり、全滅してしまうリスクも大きいと言えます。
しかし、細胞数が少なく、小さな個体では、とんでもないスピードで増えていくことができるので、このような無性生殖が有利となるわけですが、細胞数が多い、大きな個体では、無性生殖は不利になってしまいます。
このように動物たちの多くは、有性生殖により増えていくということがお分かりいただけたと思います。では、このような有性生殖や無性生殖とは違うクローンはどのようにして新たな個体を生み出すのでしょうか?
3.クローン
クローンは動植物たちが新たな個体を獲得する有性生殖とは全く異なります。一体どういうことなんでしょうか?
実は、そんなクローン技術は、私たちの生活でもすでに使用されているのです。その例は『挿し木』です。種から育てるのは時間もコストもかかってしまいますよね?
しかし、木の一部を切断し、新たに個体を作り出せばコストは削減されることになります。植物の場合、茎から新たな根が生えてくるのでこういったことが可能になるわけです。もちろん人間を含む動物ではこの技術は使えません。身体を切断したら死んでしまいますよね。
ただ、プラナリアというウズムシは例外ですけど。彼らは細切れにしても体が再生していきます。不思議な生物ですよね。
少しずれてしまったので、お話を戻します。このようなクローン技術である挿し木はサツマイモやバナナで使われているのです。
では、どのようにして動物のクローンが作られるのでしょうか?一般的には2つの方法が考えられます。
1つは、まだまだ未熟な受精卵の一部を分割し、新たな個体を作るということです。1つの受精卵から個体がいくつかできるのは1卵生双生児がいるのでわかりますよね。1卵生双生児は遺伝子が全く同じなのです。
もちろん遺伝子が同じだからといっても、生活環境や、その他様々な要因で、まったく同じ人間にはなりません。しかし、同様に、同じ遺伝子をもつ個体を人為的に作れるというわけです。
今から100年以上前、この方法でウニのクローンが作られています。これが人類が初めて生み出した、動物のクローンでした。この後、この方法を利用し、羊や牛、サルなどが生み出されていきました。
しかし、受精卵を分けるという方法では、どのような個体になるかわからない。
大量には生み出せないなどのデメリットがあったのです。そこで考えられた2つめの方法は、体細胞から新たなクローンを作り出すというものです。
体細胞から細胞核を取り出し、核を取り去った未受精卵に移植。そして、母親の体に入れるというような方法です。簡単に言えば体細胞を分化する前に戻し、個体を生み出すということです。
今回のサルはまさにこの方法でクローンが生み出されたのです。世界で初めてこの方法で生み出された哺乳類はドリーであり、そのため世界は衝撃を受けるとともに、有名となりました。
この方法では、1つめの方法と異なり、どのような個体になるか分かったうえで、クローンが生み出されます。成体から細胞を取り出すので、当然ですよね。
また、体細胞は受精卵よりもはるかに大量に獲得することができます。つまり、たくさんのクローンを生み出せる可能性があるということになります。
まさに、あの映画のようなことが可能になるかもしれないということ。
しかし、まだ現代の技術では成功確率がかなり低い上に、生み出されても寿命に関する問題が大きいのです。
まず成功確率が低いということですが、今回のサルでのクローンもかなり低い結果となっています。79個の受精卵をメスの子宮に入れて、2匹しか生まれなかったのですから。確率は、2.5%でしかありません。
今の段階では、成功確率は非常に低く、まだまだ人間に適用できるものではありませんよね。そして、寿命に関しても課題が残っています。この2匹が今後どれくらい長生きするか不明なのです。
ドリーは短命であったため、テロメアが短かったせいだといわれていましたが、他のクローン羊は通常の個体と同じくらい長生きしました。すぐに死んでしまう個体もあれば、長生きする個体もある。寿命についても、まだまだ謎が多いといことです。こんな不安定の状態ではまだまだ使えません。
この他にも倫理問題などを含め、非常に多くの課題を抱えている研究であるということには間違いありません。未だに人間のクローンは生み出されていないと言われています。
実験は母体にも非常にリスクがかかる上に、倫理問題が非常に大きいですから。今後クローン技術がどのように進んでいくのか非常に興味深いですね。
4.さいごに
クローン技術は、臓器移植や医薬品の開発に応用できるとされています。今回、中国の研究者もそのように発言しています。しかし、人間のクローンが使用されるというのは複雑な問題ですよね。
また、私たち人間だけでなく、サルや羊、マウスたちも大切な命であり、決してそれを忘れてはいけないと思います。現在、クローン技術だけでなく、医薬品の開発には様々な動物たちの犠牲が伴っているのです。
私たちはもう一度そのことをしっかり考えしっかりと生きていかなくてはいけないのではないでしょうか。今後、科学の発展に伴い、命とは何なのか?
もっともっとしっかりと考えなければいけない時代になってくるのかもしれませんね。