2019年4月24日の『Nature』で常温、常圧化でアンモニアを合成する革新的な方法が発表されました。
その方法を開発したのは東京大学の西林仁昭教授らであり、モリブデンを含む触媒を用いてアンモニアを合成するというもの。
この発表がいかにすごいことなのか?皆様に感じていただくためにこの記事をかいています。
今回は現在アンモニアの合成する方法として広く利用されている「ハーバー・ボッシュ法」とはどういうものなのか?というところから説明していこうと思います。
ハーバー・ボッシュ法
窒素
アンモニアというと皆様はどのようなイメージをお持ちでしょうか?
くさい、とか尿といったところで、あまり良いイメージは無いのかもしれません。
しかし、アンモニアは人間にとって欠かせない存在なのです。
その理由は窒素にあります。
植物が育つには窒素は欠かすことのできません。なぜならば窒素は生命の設計図であるDNAやたんぱく質に含まれ、成長するには多くの窒素が必要となるからです。
人間は食物を食べたりすることで窒素を採取することができますが、植物は土壌中から窒素を獲得しなければなりません。
そのため、作物などを育てるには窒素が含まれる肥料を撒かなくてはいけないのです。
地球の人口は現在75.3億人であり、窒素肥料によって支えられているといっても過言ではありません。
窒素が大事なのはわかった。空気中には窒素が80%も含まれているので、じゃあそこから回収すればいいじゃないかと思われるかもしれませんが、そう簡単にはいかないのです。
窒素は空気中で窒素同士がくっついた窒素分子として存在しています。
この結合はとても強く、高い温度にしなければ他の物質と反応しません。反応しないということは使うこともできないということです。
そのため、窒素を利用するときには窒素分子としてではなく、アンモニアとして利用するのが有効となります。
なぜならアンモニアは窒素を含み他の物質と反応しやすいからです。
このような理由からアンモニアが必要であることはお判りいただけたでしょうか?
そして、このアンモニアを合成する方法として現在最も使われているのが『ハーバー・ボッシュ法』なのです。
ハーバー・ボッシュ法
空気からパンをつくる方法と言われ、100年以上アンモニア合成の方法として用いられてきたのが『ハーバー・ボッシュ法』です。
ドイツの物理化学者フリッツ・ハーバーは1904年ごろから大気中の窒素と水素よりアンモニアを合成する研究に取り組みました。
しかし、先述したように窒素は安定で大気から取り出すには高温状態にする必要があり、当時の技術でが電力は大量に消費するし、できたアンモニアも分解するしで実用には至っていませんでした。
そこでハーバーは1909年、大きな圧力をかけ、さらに触媒としてオスミウムを使用することでアンモニアを合成する温度を大幅に下げることに成功します。
その後、BASF社のエンジニアであったカール・ボッシュと共に触媒を変えるなどして商業科に成功させたのです。
これこそがハーバー・ボッシュ法。
このおかげで私たち人類は多くの食糧を獲得することができたという良い面もある一方でアンモニアから作られた硝酸から火薬が作られ、第一次世界大戦では多くの人の命が亡くなったと言われています。
科学技術は人を救う反面、戦争などに利用され多くの命を奪ってきました。決してその使い方を間違ってはいけません。私たちは二度と同じ過ちを繰り返さないようしっかりと歴史も学ばなければいけないのです。
フリッツ・ハーバーはハーバーボッシュ法の業績により1918年にノーベル賞を受賞していますが、毒ガスの指導的立場であったことから化学兵器の父とも呼ばれています。
新たなアンモニア合成法
自然界には常温常圧化でアンモニアを合成する酵素が存在しています。
それはマメ科植物と共生している根粒菌が持つ「ニトロゲナーゼ」です。
このニトロゲナーゼの反応にかかわる中心部にはモリブデンが存在し、これに着目した西林教授らはモリブデンを含む触媒を用い、窒素ガスと水、そしてヨウ化サマリウムからアンモニアを合成することに成功しました。
この方法では常温常圧化でアンモニアを合成することができるため、今後大きくアンモニアを合成の手法が変わってくる可能性もあります。
現段階ではヨウ化サマリウムの回収や再利用のサイクルなど、改良していかなければいけない点も多いですが、それも近い将来改善されていくと考えられます。
世界のアンモニア事情が大きく変わる日が近いかもしれませんね。
さいごに
科学は積み重ねによってどんどん新しい技術が生み出されていっています。
今年のノーベル化学賞のリチウムイオン電池もそのうちの一つですよね。
今回のこのアンモニアの合成法が実際に商業科されれば、大きく世界が変わるはずです。
本当に楽しみですよね!