PCR検査という言葉を耳にする機会が増えたと思います。では、PCRとはなんなのでしょうか?
PCRとはPolymerase Chain Reaction の略で、日本語ではポリメラーゼ連鎖反応。
今回はPCR検査の方法ではなく、そもそものPCRとはどういうものなのか?というところを解説していこうと思います。
1.PCRの誕生
PCRは1983年にアメリカの遺伝工学関係の会社であるシータス社に務めていたK.B.マリス氏が考案した方法です。マリス氏はこの功績によって1993年にノーベル化学賞を受賞しています。
マリス氏はその当時、人の遺伝性疾患の原因を効率良く探し出す方法を編み出す必要に迫られていました。
人のDNAは約30億塩基対、その中から原因となる位置をピンポイントで正しく検出するのは非常に困難であったのです。
せめて、原因と考えられる部分の周辺のDNAを増やすことはできないか?
そんな5月のある日、マリス氏は車での帰宅途中、アンダーソン谷間に差し掛かった時にふとアイデアが浮かんできたそうです。
そして、思いついたその方法の原理がとても単純であったため、すでに他の人が論文として発表しているのではないか?と考え調べました。
しかし、誰も発表していなかったのです。
2.PCRとは
PCRとは、一言で言ってしまえば「特定のDNA領域を増幅する方法」であり、増やしたいDNAがたとえ少量であったとしても数時間で大量に獲得することができる方法です。
そして、その方法は3つの工程を1サイクルとし、それらを繰り返します。
①増幅したいDNAの準備
DNAとはデオキシリボ核酸という物質であり、デオキシリボース、リン酸、塩基からできています。
そして、この塩基にはA、T、G、Cの4種類が存在し、この配列によって遺伝情報が決定するのです。また、DNAは2本の鎖がらせん状になった状態で存在しています。
PCRをするには、DNAポリメラーゼ、増やしたい二本鎖DNA、そして、DNA鎖の両端に結合する2種類のプライマーが必要です。このプライマーはDNAポリメラーゼがDNAを伸長するために必要となります。
プライマーは20塩基程度の長さで、上下逆向きのDNA鎖の一部の塩基配列と相補的な配列の物、例えばDNA配列が5´-AAGCTGGACT-3´であれば、5´-AGTCCAGCTT-3´を合成し、用意します。
②工程1 熱変性
まず、用意した二本鎖DNAを95℃で3分間加熱します。そうすることで、二本鎖であったDNAは熱変性により一本鎖となります。
③工程2 プライマーとのアニーリング
ここで温度を50~60℃に下げます。しばらくすると分かれたそれぞれの一本鎖DNA鎖に用意していたプライマーが水素結合します。
④ポリメラーゼ伸長反応
最後に温度を72℃にすることで、DNAポリメラーゼがプライマー3´端よりヌクレオチドを付加していきます。そうすることで、二本鎖のDNAが2つ出来上がることになるのです。
DNAポリメラーゼは酵素であるため、この高温で変性してしまうのでは?と考える方がおられるかもしれません。
確かに通常の酵素であれば、72℃でも十分変性してしまいます。しかし、PCRに使用されるDNAポリメラーゼは95℃でもその機能を保持することができるのです。
なぜなら、高温の温泉地帯に生息する好熱細菌のDNAポリメラーゼを利用しているからであり、代表的ものにTaqポリメラーゼ、Pfuポリメラーゼがあります。
PCRはこの1~3の工程を1サイクルとし、何回も繰り返すことでDNAを指数的に増やすことができるのです。
3.さいごに
今やPCRは遺伝子工学の研究のみならず、様々なところで使用されています。
代表的なのが今回の騒動で一般に知られることとなったウィルスの検査。検体から得られたRNAをまず、DNAに変換し、PCRでDNAを増幅させることで陰性か陽性かを判断しています。
なぜ、わざわざ変換する必要があるのかと言いますと、ウィルスはDNAではなく、RNAを持っており、感染していた場合、体内にはウィルスのRNAが存在しています。しかし、RNAのままではPCRは行えないので、変換する必要があるということです。
PCRはウィルスの検査以外にも犯罪の調査などにも利用されています。
ぜひ、皆さんも覚えておいてください。
<参考文献>
・ゲノム工学の基礎 2002年