【科学選書Vol. 12】知られざる鉄の科学 齋藤勝裕 感想・レビュー

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『知られざる鉄の科学は』私たちが普段生活する中の鉄から、想像もつかないような一面も教えてくれる1冊です。

私たちの住む惑星「地球」の表面の多くは水に覆われているため、水の惑星と呼ばれることが多いですよね。

それは、1961年にソ連の宇宙飛行士ユーリイ・ガガーリンが放った「地球は青かった」有名なセリフにも表れています。

しかし、地球の元素を重量の比率で見ると、鉄が最も多い元素なのです。

つまり、地球は水の惑星というよりも鉄の惑星。

鉄があるおかげで私たちはこの地球で暮らすことができているのです。

およそ46億年前、原始地球には隕石が降り注ぎ、高温でドロドロの状態でした。

重いものは下に沈むので鉄やニッケルは内部に沈んでいき、地球の中心部を作り、軽いアルミニウムやケイ素は表面で冷やされることで地殻となっていきます。

やがて宇宙空間への放熱により地球は冷やされ、水蒸気は水となり、海洋を作りました。

ただ、この時の海洋は生物がすめる状態ではありません。

火山の爆発によって大量の硫酸や塩酸などの酸性物質が海洋に溶け、海洋は強い酸性状態となっていたからです。

次に地殻中の金属が酸と中和反応し、塩ができ、海洋は中性となり、30億年ほど前から光合成を行うシアノバクテリアという単細胞生物が誕生します。

そのおかげで大気には酸素が大量に存在することになります。

しかし今度は酸素はどんどんふえていく一方であり、酸素は多ければ猛毒です。

大気の酸素濃度が増えすぎて、地上は生物が存在できる状態ではありませんでした。

いよいよここで『鉄』が登場します!

鉄が酸素と反応し、大気中の酸素濃度を減らしたのです。

縞状鉄鉱層から、20億年前にこのことがおこったと考えられています。

その結果、地球の大気は現在のような生物が生きるのに適した状態になったのです!

このように鉄が無ければ、私たちは地上で生活できていなかったわけですね。

数々の偶然があり、鉄があったからこそ地上にこんなにもたくさんの生物を生み出したということがわかります。

さらに鉄はこれだけではなく、生体内でも重要な役割をしているのです。

血中のヘモグロビンは鉄を利用し、体中に酸素を運んでいます。

また、DNAの複製にも関与しており、人のからだに存在する鉄はわずか4~5g程度ですが、非常に重要な元素なのです。

軽く『鉄』についてお話しましたが、これだけでも鉄がいかに重要な元素だといことがお分かりいただけたのではないでしょうか。

この本を読めば、もっと鉄について知ることができます。

フルカラーでイラストもわかりやすく、とてもおススメです。

1.本を読んでみて

この本に書かれている特に気になったお話を紹介します。

恐らく皆さんもすきなテーマ。

現代の科学技術をもってしてもその謎を解くことができていないものです!

その謎とは、『ダマスカス鋼の製法』と『チャンドラバルマンの鉄塔はなぜ錆びないのか』の2つです。

1つめのダマスカス鋼とは別名ウーツ鋼。

古代からインドで作られた鋼材で、シリアのダマスカスに送られた刀の成形に使われたため、その名前が定着しました。

かつて十字軍の騎士たちはダマスカス鋼で成形されたダマスカス刀を持つことをなによりも名誉とし、その刀は鉄の鎧を切っても刃こぼれしないほどの刀だったという伝説があります。

その製法は「平原にのぼる太陽のごとく輝くまで熱し、次に皇帝の服の紫紅色となるまで筋骨たくましい奴隷の肉体に突き刺して冷やす、・・・・・奴隷の力が剣に乗り移って金属を硬くする」(本書より引用)と伝えられ、簡単に言えば、人の体で焼き入れをするということなので、とても恐ろしい製法ですよね。

美しい木目状の波紋と柳の枝のようなしなやかさを持つこの伝説の刀は19世紀、鉄砲が武器のメインとなったため生産が途絶えてしまい、一子相伝的に伝えられていたその製法は途絶え、わからなくなってしまいました。

その後、ダマスカス鋼の組成が明らかにされ、再現が試みられましたが、完全再現は現代の技術も持ってしても成されていないのです。

かつて、イギリスの物理学者マイケル・ファラデーもダマスカス鋼の再現に挑みましたが、再現することはできませんでした。

現在ダマスカス鋼として売られている刀は模倣であり、組成の異なる鋼材を貼り合わせ、折り返し鍛造することで、波紋様を再現したものとなっています。

ちなみにこの模倣ダマスカス鋼の包丁はAmazonでも買えますよ!

錆びにくく綺麗な模様をしている非常に高価な包丁です。

本書ではカーボンナノチューブが含まれているというドイツの研究が取り上げられていましたが、その研究の真偽は怪しいということです。

ただ、古代インドでどのようにしてダマスカス鋼を加工したのか、その製法はいまだに明らかとなっていません。

製法が明らかとならなければ完全再現されたとは言えません。

はたして完全再現される日はくるのでしょうか?

そして2つめは『チャンドラバルマンの鉄塔はなぜ錆びないのか』。

チャンドラバルマンの鉄塔とはインドの首都、デリー郊外にある世界遺産クトゥブ・ミナールにある直径44cm、高さ7mの1本の鉄塔。

およそ1600年前につくられたその鉄塔は未だに錆びていません。

普通の鉄はすぐに錆びてしまいますよね!

なぜ錆びないのか?という説はいくつかあり、人が触りまくるからその油でコーティングされるために錆びない!というものもありますが、1997年以降は柵で囲われているため、その説は却下されました。

そして、もっとも有力なのはインドの独特な鉄の精製方法にあります。

鉄を精製する時、ミミセンナというリン(P)を含む植物を加えていたという記録があるのです。

その証拠にインドで産出される鉄にはリンが比較的多く含まれています。

また、このチャンドラバルマンの鉄塔を作った時、何個にも切り分けられた鉄を叩いて作られたとされています。

その結果、鉄の表面にリンが浮かび上がり、リン酸化物が鉄をコーティングすることで、錆びにくいといわれています。

ただ、1600年もの間錆びていない理由を明確に説明することはできていないのが現実です。

過去の技術というのは現代人が侮れないくらい素晴らしいものばかりですね!

この本ではこのような海外の鉄の謎も書かれていますが、日本刀についてとても詳しく教えてくれます。

日本も海外に負けない素晴らしい鉄の加工技術を持っています!

しかも現代にも受け継がれ、日本刀は武器ではなく芸術作品として残っています。

人類と鉄、とても深いつながりであり、鉄がない世の中は考えられませんね!

なんだか日本刀なんかはあこがれを感じたりもします。

『鉄の科学』を読み、もっともっと鉄のことが知りたい!となってみてはいかがでしょうか?

2.本の詳細

『知られざる鉄の科学』

齋藤勝裕 著
小川淳 発行者
SBクリエイティブ株式会社 発行所

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