本日紹介する本は元素についての本です。
文庫本サイズですが、かなりしっかりした内容なので読みごたえがあり、お勧めの1冊です。
『元素はどうしてできたのか 誕生・合成から「魔法数」まで』
この本では原子とは何でできているのか?というところから、そもそもどうやって誕生したのか?、さらには人の手によって新たに生み出されている元素についてを教えてくれます。
ということで、今回はこの本を読む前の予備知識として原子と元素を少し解説していこうと思います。
この記事を読んで本をこの本を読めばさらに理解が深まるはずです。
では早速、皆様は元素と原子の違いを言えるでしょうか?
何となくわかるけど、はっきりと言い切ることはできないという方も多いかもしれません。
早速ですが、その答えを言ってしまいましょう。
元素と原子の違いを簡単に言えば、『原子は3000種類ほど存在し、その中のいくつかの同位体の原子をひとまとめにしたグループ名が元素である』といったところでしょうか。
もっと簡単に言えば、元素は似ている原子をひとまとめにしたものです。
皆様は即答することができましたか?
今回はせっかくなので、本の紹介だけではなく、原子とはなにか?を説明していきましょう。
1.原子とは?
そもそも原子とは一体なんなのでしょうか?
原子は私たちを形作るものでありながら、地球や太陽、宇宙にある惑星なども原子からできています。
かつてはこれ以上分けることのできない粒として考えられました。
現在ではさらに粒に分けられることが分かっていますが、、、、
そして、その原子なのですが中性子と陽子から成る小さな原子核(陽子1つだけのものもある)とその周りを周る電子によってできています。
原子の大きさに対し、原子核の大きさは10万分の1であるということは驚きです。
例えるならば、数メートルの教室のあなたのシャーペンの芯の太さ程度。
また、原子はこの陽子と中性子の数の違い、つまり原子核の違いによって種類が存在し、現在発見されている原子の数は3000種類にも上るのです。
陽子数を縦軸に横軸には中性子数をとった『核図表』ではその全てを見ることができるので、ぜひ調べるか本を読んでみてください。
ここで陽子の数は同じでも中性子の数が異なるものを「同位体」と呼び、陽子の数が違えば原子の性質は異なり、異なる原子番号が付けられます。
そしてこの原子番号によって分類されたグループこそが元素なのです。
2.元素とは?
元素とは、陽子の数の違いによってまとめられた原子のグループ名ということですが、かつてラボアジェは元素を「それ以上分解できない単純な物質」であると定義しました。
それ以来、元素は次々に発見され、さらにはメンデレーエフの周期表の確立以降、現在見つかっている元素は118種類になります。
天然に作られる元素は原子番号92番のウランまでであり、93番のネプツニウム以降は人の手によって作られ、発見されました。
それではなぜ92番のウランまでしか天然で存在しないのか?
それは陽子の数が多すぎると安定せずに、崩壊してしまうからです。
これは陽子と陽子の間に働く電気的な反発が強くなることで起こります。
また、このような陽子が多い元素を超重元素と呼び、森田浩介博士率いる研究グループが発見し、命名した113番目の元素ニホニウムに至っては、半減期がわずか2/1000ミリ秒しかないのです。
想像がつかないくらい短いことはわかりますよね。
3.重元素はどのように作るのか?
元素を作るとはどういうことなのか?
えい!と魔法のように声をかけてできるわけでも、じーっとまっててもできません。
とてつもないエネルギーが必要となってきます。
では、どうやって作るのか?
それは、電荷を持った粒子を加速させて、勢いよくぶつけるのです。
いわゆる加速器というものを使用し、元素を作っています。
実は身近なところにもこの加速器と同じ原理のものはあって、それは蛍光灯です。
蛍光灯はどうやって光っているのか?
蛍光灯の両側の電極に電圧がかけられると、ガラス管内のマイナスの電極からプラスの電極めがけて電子が飛び出していきます。
つまりこれが加速というわけなんですが、蛍光灯内には水銀原子が入っているため、このように加速された電子が水銀原子に当たることで、紫外線がでます。
そして、その紫外線が蛍光灯のガラス管の内壁に塗られている蛍光塗料に吸収され、その蛍光塗料が光を放っているのです。
実は身近なところにもある加速器ですが、その性能はどんどん上がってきており、初めは陽子しか加速できなかったものから現在では重い元素まで加速できるようになったのです。
この加速器を使用し、例えば110番目の原子を作ろうとすると、標的を92番のウランにし18番のアルゴンをぶつけるなどのように元素を新しく作りだしているわけなんですね。
4.原子は何でできている?
原子はかつてそれ以上分けることができない粒であると考えられていましたが、今はそうではありません。
原子は先ほど、原子核の周りに電子が周っているものであると言いました。
さらにその原子核を構成するのが中性子と陽子であり、さらにその中性子と陽子は3つのダウンクォークとアップクォークと呼ばれる素粒子からできています。
また、その素粒子はグルーオンという接着剤のような素粒子によってくっついているのです。
このように現在では原子はさらに小さな素粒子の集まりであるということが分かってきており、2013年に発見された質量を生み出す粒子であるヒッグス粒子もそのうちの1つというわけですね。
5.ニホニウム
メンデレーエフが周期表を提唱した時に見つかっていた元素は63種類でしたが、現在名前の付けられている元素は118種類になりました。
その名前の由来は様々であり、地名や人名、神名、天体の名前に由来するものなどもあります。
そして、その中でも113番目の元素『ニホニウム』は名前の通り、日本に由来するものです。
日本人としては大変喜ばしいことですよね。
ただその経緯はとても大変なもので、ドイツの研究グループに競り勝って手にした命名権なのです。
2004年7月23日に初めて日本は113番目の元素を合成することに成功しました。
さらには2005年4月2日にも合成し、国際純正・応用化学連合(JUPAC)と国際純粋・応用物理学連合(IUPAP)の合同作業部会(JWP)が出す数年に1回のコールにその証拠を提出しました。
同時にドイツの研究グループも違うアプローチで113番目の元素の命名権を獲得すべく証拠を提出したわけですが、結局どちらも証拠不十分として認められなかったのです。
しかし、2個目の合成から7年後の2012年8月に日本は3個目となる113番目の元素の合成に成功し、その年のコールで証拠を提出しました。
その結果、なかなか結論がだされなかったのですが、2015年12月31日に日本に命名権が与えられたのです。
※この本は2013年に出版されているため、命名権を獲得したことは載っていません。
初めての合成から10年以上も経ってようやく命名権を獲得できたということはとても喜ばしいことであり、すさまじい根気がいる研究だったと思います。
また、この『ニホニウム』の半減期は2/1000ミリ秒というところから、その元素の発見はとても繊細な研究であるということもわかりますし、私たちにとってはそれができているかできていないのかもわかりませんよね。
今後、さらなる元素が人の手によって作られ、発見されていくかと思いますが、一体元素は何番まで増えるんでしょう。
わくわくが止まりません。
6.さいごに
新しい元素を発見することに何の意味があるのか?
それは私たちの生活の役に立つのか?
発見することの意味は人類の知見を高め、宇宙の起源や様々なことの真理を明らかにすることができるかもしれない、といったところでしょうか。
確かに新元素は自然ではできないくらいとても不安定で一瞬にして崩壊してしまうため、今は何の役に立つのかわかりません。
しかし、このような基礎研究は何年も先に花開くことが多く、これまで多くの学者の先輩方が基礎研究してくれたからこそ今の技術が確立されているのであり、私たちもまた将来の人類のために基礎研究はおろそかにはしてはいけないのだと思います。
現代はすぐに役に立つか立たないかで判断されがちで、基礎研究はお金をかけ辛い世の中になってきています。
過去を見直し、改めて基礎研究の大切さを見直すことができる世の中になって欲しいですね。
ぜひ、この本を読んで元素について考えてみてはいかがでしょうか。
7.本の詳細
『元素はどうしてできたのか 誕生・合成から「魔法数」まで』
2013年12月 初版
櫻井博儀 著
小林成彦 発行者
株式会社PHP研究所 発行所
【参考文献】
Newton別冊『完全図解 元素と周期表 新装版』 (ニュートン別冊)