これからの基礎研究と教育について考えさせられる1冊『生命科学の未来』本庶佑著

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本庶佑先生は2018年ノーベル生理学・医学賞に受賞されました。

免疫反応のブレーキを担うPD-1を抑えるPD-1抗体を作製し、それによって免疫力を高め癌を治療したことによる功績が評価され、ノーベル賞の受賞に至ったのです。

人間自身が持つ免疫力を高めることで癌をやっつけるこの治療法は、抗生物質ペニシリンの発見に匹敵するほどの人類社会への貢献であると2016年に発表された英国の科学誌『New Scientist』の記者がその中で述べています。

それは、このPD-1抗体による癌治療は免疫力を向上させるので副作用が少なく、理論上全ての癌へと対応することができると考えられるからです。

今回ご紹介する本は『生命科学の未来』。

この本には本庶佑先生の2回のご公演、2016年『PD-1抗体発見への道のり』と2007年『幸福の生物学』の2つの講演録が収められており、また、その後には2014年に行われた現静岡県知事である川勝平太氏と本庶佑先生との『生命科学の未来』に関する対談が収められています。

PD-1抗体はどうして発見され、実用までにどれほどの経緯があったのかというのが分かりやすく書かれており、生物を勉強していなくても理解することはできるはずです。

なんと発見から実用化に至るまでには20年の年月が必要であったということは驚きであり、基礎研究が実を結ぶにはどれほどの期間が必要なのかということが分かります。

最近の日本では5年以内に結果を出せというような結果ファーストになってしまっており、将来が不安であるということも、、、

自身の研究について本庶先生は免疫反応のことを車に例えPD-1抗体を誰でも分かりやすくお話されています。

自動車を駐車状態から出発させる時、パーキングブレーキを解除しゆっくりとアクセルを踏む必要がありますよね。

この時のアクセルはCD28(T細胞の活性化および生存に必要なT細胞上で発現されるタンパク質)、パーキングブレーキはCTLA-4(T細胞活性化の負のフィードバック制御因子)。

この2つは自動車のONとOFFであり、免疫反応の発進と停車として働きます。

一方で、道路を走行している場合のアクセルに相当する、つまり免疫が相手を攻撃するアクセルというのがICOSであり、ブレーキがPD-1なのである。

そして、この免疫のブレーキであるPD-1を抑制するのがPD-1抗体なのです。

また、本書では本庶先生のこれからの教育の考え方を語られています。

中・高からしっかりとした教育が必要であり、生命現象は人間の活動の基本です。

若いうちから教育を受けることで倫理感や個性の問題などをきちんと理解できるので、生命科学は基礎的な教養でならなければいけません。

1.本庶佑先生

戦時中の1942年京都府京都市に生まれ、山口大学医学部教授であった父の都合により山口県で育ちました。

その後、1960年に京都大学医学部医学科に進学され、1966年に卒業。

医師としての道を進まず、研究者としての道へ進まれました。

1970年からはアメリカで研究をされ、そのまま残るという選択肢もありましたが、子供には日本の教育を受けさせたいという気持ちから日本に帰り研究をされることを決意されました。

アメリカは給料も高く、研究への資金も日本とは比べ物になりませんでしたが、日本でもまともな研究をしたいというチャレンジ精神を持っておられたのです。

遺伝子組み換えの技術が進んだ1970年代というところもまた、本庶先生の研究を進めた一つの要因となりました。

1979年には大阪大学の教授に就任され、1984年には京都大学へと。

そして、ちょうどそのころに発見したのがPD-1でした。

現在では京都大学の名誉教授でありながら静岡県公立大学本陣理事長などに就いておられます。

2.オプジーボ

PD-1の発見から実用に至るまでは約20年の年月が必要でした。

まず壁となって立ちはだかったのはヒト型抗体を作らなければいけないということです。

これには多くの費用が必要であり、特許の共願者であった小野薬品工業は1社では無理なので国内外の企業と共同研究をしたいと相談していきましが、1年間で十数の企業に断られたため、断念することを提案したのです。

しかし、そこで本庶先生は諦めることなく、自身で米国のベンチャー企業と開発を提案したりするうちにメダレックス社が小野薬品工業に共同開発を申し込んできたことで開発が始まりました。

2006年には米国のFDA(アメリカ食品医薬品局)に承認され、治験が開始、日本でも2年遅れで治験がスタートしたのです。

その結果、PD-1抗体、商品名オプジーボを用いた治療によって個人差はあったものの、もう助からないとも考えられた癌患者の命を救うことに。

『ウォールストリート・ジャーナル』や『フランクフルター・アルゲマイネ』などの経済紙・高級紙にも大きく取り上げられる結果となったのです。

まだ全ての癌に対するプロトコルは確立されていませんし、まだまだ高価な治療でありますが、これからの癌治療に大きく貢献するものであることは間違いありません。

3.本を読んで

基礎研究がいかに大切なのか、それがどれだけ時間がかかることなのか、それは理解しなければいけません。

かつての研究者たちが行ってきた基礎的な研究は何十年という月日ならまだしも、何百年後に花を開くことだってあるのです。

結果ファーストに考えてしまうと今は良くても将来に大きな花を咲かせることができなくなってしまいますよね。

本庶先生は本の中で倫理感についても語っておられます。

倫理感とは生命科学を学ぶことで身に付くと。

私たち人間も生物であり、動物にだって倫理はあります。

私たちはなぜ生きているのか?

そういったことは生命科学に詰まっていることであり、昔なら勝手に身に付いたことも今はしっかりと学ぶべきだとされています。

【生物にとって最大の価値は「生きる」こと】
本書より

これからの教育、そして基礎研究と考えさせられる1冊なのでぜひ皆様も読んでみてください。

4.本の詳細

2018年12月10日 初版
本庶佑 著者
藤原良雄 発行者
株式会社藤原書店 発行所

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